「…栗原がどうしたんだよ」

 あいつのことなら、何でもいいから知りたい。いや、変な意味ではなくて、弱みを握れるかもしれないということだ。
 スイは、俺に目を向けると、ふ、と鼻で笑った。俺はムッと顔を顰めてスイを睨んだ。

「何がおかしい!」
「いんや、アンタ必死だなーって思ってさー。この"栗原"翼に」
「あ?」

 飄々とした笑みを浮かべながら無駄に苗字を強調したことに眉を顰めると、スイは喉を低く鳴らして笑った。

「アンタ何も分かっちゃいないっすね」
「まるで自分はよく知ってるみたいな言い方だな」
「少なくともアンタの三倍は知ってますけどー」

 その言葉に、妙な不快感が俺を襲う。煙草を吸わなかったから苛々が増しているのかもしれないと思い、舌打ちをした。
 何で俺よりあいつのことを知ってんだよ。あいつと一年間やり合った俺よりも。いやこれ、別にへんな意味じゃねぇから!

「何でって顔してますねー。アンタさ、知らないっしょ? あいつの苗字も嘉山廉との関係も」
「あぁ? 馬鹿にしてんのか。あいつの苗字は栗原で、嘉山とは教師と生徒って関係だけだろ」
「そりゃー、そー答えるしかないっすよね。アンタは何も知らないから」
「お前…! さっきから一体何が言いてぇんだよ!」
「何で俺がアンタに教えなくちゃなんねぇんですか。嫌っすよー」

 嘲笑うスイは、次いで不気味な程表情を無くして俺を見つめた。

「アイツを狩るのは俺だ」

 思わず息を呑むと、もうこっちを向くこともなく俺の横を通り過ぎた。嫌な気持ちになりながら、モヤモヤした気持ちをそのまま壁にぶつける。