「げ…」

 そういえば何クラスになったんだっけか、と掲示板に見に行くと、Dのハ行欄に自分の名前を確認すると共に、カ行のところであいつの名前を見つけてしまった。同じかよ…。まあ、滅多に行くことはないだろうし…、逆に考えれば、勝負を挑みやすくなるだろう。あいつがサボらなければの話だが。
 俺は掲示板から離れると、ポケットに手を突っ込んで歩き始める。欠伸を噛み殺していると、反対側から人が歩いてくるのが見えた。知らない奴だったらシカトしよう。俺は一瞥して、目を見開く。思わず足を止めて、そいつを凝視した。

「お前は…」
「んぁ? あー、アンタは…」

 向こうも俺に気がついたようで、目を丸くする。確かこいつは隣県在住だったと思うんだが……、何でここにいる? 制服着てるってことは…まさか、ここに通っていたのか? 若しくは、今年からここなのか。
 俺の訝しい表情に苦笑すると、そいつはガムか何かをくちゃくちゃと噛みながら俺に近づいてきた。

「久しぶりっすねぇ、"赤い破壊魔"さん?」
「その名で呼ぶんじゃねぇよ」

 赤い破壊魔とか言う変な通り名を付けられた俺は、ここいらじゃ結構有名な族の副総長をやっている。決してあの名前は自分で付けたわけじゃない。ライというちゃんとした名前がある。
 一応総長もこの学校だが、夜以外は滅多に見かけない。何でも外に出るのが怠いらしい。引き篭もり宣言をしている人だが、実力は確かだ。

「えぇー。アンタの名前とか知らないし興味ないんで」
「日向野って呼べ。間違ってもあの名前で呼ぶんじゃねえぞ」
「そう言われると呼びたくなるのが人間の性ってやつっしょー、ねえ赤い破壊魔さん」

 ニヤニヤと笑ったこいつは、敵対するチームの奴だ。名前は確か、…スイだったか?
 喋り方はやる気が一切感じられない。大川と似たような奴で、苛々が増すばかりだ。

「打ち殺すぞ。……あー、つかお前何やってんだよ、ここで」
「俺は今来たとこなんでね。クラス見にきたとこっすよー。そっちは?」
「…俺も今見に来たところだ」

 今頃来たのかよ。いや、俺が言えたことではないんだがな。

「へー」

 俺の横を通り過ぎたスイは、掲示板を見つめる。自分の名前を探しているんだろう。

「…あ」

 自分の名前を見つけたのか、声を上げる。しかし、その顔は驚きに満ちていて、次の瞬間には口は弧を描いていた。

「……栗原翼、ねぇ…」

 スイは確かに、そう呟いた。