(side:???)

「あー、だる…」

 どうせ奴は屋上だろうと思い、階段を少し急ぎ足で上がる。急がなくったって、奴は逃げないが、気持ち的な問題だ。俺は早くあいつを倒したい。悔しくも一度だって勝ったことがないあいつを。

「栗原、今日こそテメェを打ちのめす!」

 高らかに宣言して、屋上のドアを思い切り蹴ると、いつもは呆れを含んだ気だるい声が聞こえるのに、今日はしんとしていた。…寝てんのか? 俺は眉を顰めて屋上に足を踏み入れる。どこを見ても、奴はいなかった。

「…くそ、いねぇのかよ」

何だか消化不良だ。舌打ちをして、勢い良く寝転がると、煙草の箱を出す。しかし、どうやら全部吸ってしまった後らしく、箱の中は空だった。余計に苛立ちが増して、ぐしゃりと潰すと再び制服のポケットに押し込んだ。手の平に頭を乗せてぼんやりと空を見つめる。だが、数秒で飽きてしまった。空なんて眺めてても凄い詰まらん。先程よりも大きく舌打ちして目を瞑る。このまま寝てしまおうか。

「やー、ご機嫌斜めですなあ」

 不意に聞き慣れた声がして、俺は目を開ける。俺の顔を覗き込んでいるそいつは、ニヤニヤと笑みを浮かべている。こいつ、人を不快感にさせる天才だと思う。つか、こいついつの間にここに来たんだ。いつも気配もなく近づいてきて、気味が悪い。遠くからでも分かる程、外見は派手なのにな。

「んだよ、大川」
「翼くん探してんでしょ?」

 探していた人物の名前を言い当てられて、無意識にピクリと眉を動かしてしまったみたいだ。俺の反応に、奴はニイッと笑みを深くする。

「俺、知ってるよ」
「あ?」

 俺は上半身を起こして、大川を睨む。おお怖い怖い、なんて思ってもいないことを口にしながら肩を竦めている大川に殺意が沸いた。

「んでお前が知ってんだよ」
「だって見てたし」
「あ? 見てた?」

 つーことは、あいつはやはり、ここに一度来たと言うことだ。俺は先を促すように大川を見た。

「鬼山に連れてかれてたよ」
「……あー」

 その状況をすぐさま理解した。俺は鬼山が嫌いだ。あのいけ好かない見た目も、言動も、――何より、栗原と俺がいる時に向けてくる視線が一番嫌いだ。俺は中学からこの学校で、栗原と鬼山は同じ日に来たっつーのも不思議だが、何故かあいつは鬼山に目を付けられていて、俺が喧嘩を吹っかけている時も栗原だけ連れて行く。あれは、絶対何かあると俺は踏んでいる。もし何かあるんだとして、それ突けば栗原を怯ませることもできるかもしれない。

「何か言ってたか?」
「鬼山と翼くん? 何か会話してたみたいだけど、聞こえなかったよー」
「…ッチ、そうかよ」
「そう睨まない〜。ほらほら、日向野くんも入学式行ったらどう? 会えるかもよー」
「めんどくせぇ……」
「あ、それでも行くんだ?」
「うるせぇよ」

 依然としてニヤニヤしている大川を睨め付けて、俺は屋上を出た。