正直、俺一番兄貴が怖かったんだ。今の俺みたいに、不良の格好だったからな。同級生はどっちかというと可愛いもんだったよ。暴力奮振るわれたけど、所詮子どもの力だし。兄貴が殴った方が断然痛かったな。でも凄い手加減してくれてたと思う。兄貴に喧嘩売っていた馬鹿な不良なんて、気絶するくらいまで殴ったり蹴ったりしてたからな。その点俺は、精々一日中痛むくらいだった。何だかんだで優しい(…?)と思うし、俺自身好きだしな。尊敬もしてる。恥ずかしいから表面には出さないけど。
 俺の兄貴語りは今は置いておいて、無理矢理に特訓という名の暴力を受けた俺。大学生に太刀打ちできるわけないだろってんだ。一応大学に入って不良は卒業してたから、力は前より抑え気味になったみたいだけど。
 で、強い兄貴に鍛え上げられ、序に吃音も矯正させられて、精神的攻撃以外は苦痛じゃなくなった。いや、反撃しろよって散々言われたんだけど、やっぱり暴力とかしたくないしさ。
 だけどある日、俺はやってしまった。

「おい空気ー。お前、ホント暗いな」

 近づいてきたクラスのリーダー的存在の奴。周りに数人連れて、ニヤニヤと俺を見下した。また来たか、と内心溜息を吐きながら顔は上げずに、ずっと机を見つめていた。それが気に食わなかったのか、顔を真っ赤にして煩く喚きながら殴りかかってきた。いつもは殴られて、むこうがいい気分になって終わり。だが、無意識にそれを避けて立ち上がり、ていっ! と手を突き出したら、運悪く鼻辺りに当たったらしく、鼻血を出して倒れてしまった。周りは勿論、俺も呆然とした。そして気づく。兄貴を相手していた俺は、力の加減を間違ってしまったのだと。
 周りが唖然とする中先生が血相変えて近づいてきて、俺に何でこんなことしたんだとか何とか言ってきたけど、俺の時は見てみぬ振りすんのに、と苛立ったのを覚えている。親に連絡されて、俺の両親は相手の両親に謝っていた。それを見て凄く申し訳ない気分になったけど、両親は家に帰ってから俺の頭を撫でたのだ。

「よくやった! お前も男だな!」
「もう一人前ね。赤飯でも炊こうかしら?」

 いやいやいや。人傷つけておいてそれは駄目だろ。なんつーか、流石あの兄貴の世話をしてきただけあるなと思った。