「…スミ」

 まず、褐色肌の男がシルバーの名刺を渡してきた。意外に凝ったデザインだ。

「俺セツね」
「俺はライ」

 銀髪がセツで赤髪がライか。二人は同時に名刺を俺に差し出すと、ニヤリとタイミングよく笑った。この息の合い様…なるほど、双子か!
 なんだ、もう役職分かったぞ。俺はニヤニヤしそうな顔を必死で抑えて、平静を保つ。

「俺はねー」
「それで、どうすればいいんですか?」
「あれ!? アキラちゃん、俺の自己紹介無視!?」
「いや…名前知ってるし」
「えー! 酷ーい! どう思う、ランくん!」
「この役職名の欄に名前を書いてね」
「俺の扱い酷いよね…」

 視界の端で國廣が、どんよりとした空気を纏いながら膝を抱えて床にのの字を書いているのを見ながら、ラン先輩の説明を聞く。受け取った紙には表が書かれている。この役職名のところに名前を書け、ということだな。ふむふむ。

「そして後で一人ずつ指名してもらうから。役職と一緒に名前を言ってね」
「ん? えーと…それなら、ここに書く必要は?」
「証拠だ」

 ふん、と偉そうに腕を組んで笑んだジン先輩に少しドキリとしながら、なるほど、と頷く。言い逃れできないようにか。まあ間違える自信はないから、多分大丈夫だと思うんだけど。

「俺! 俺を一番に指名してね、アキラちゃん! 俺の源氏名はアッキーだからね!」

 ああ、うん。そうだと思ってたよ。
 俺は雑に数回頷く。

「はいはい」
「凄い棒読み加減ですなあ」
「お前嫌われてんじゃねえの?」
「がーん! そ、そんなことないもんね!」

 セツ先輩とライ先輩の二人は、きししし、と馬鹿にしたような笑みを浮かべながら國廣の肩を肘掛代わりにしている。國廣は二人の言葉にショックを受けたような顔をして、頬を膨らませた。美形でも、ちょっと、その顔は引くわ……。
 國廣を挟んでいる二人も「キモ…」と呟きながら顔を引き攣らせた。

「はいはい、そこまで。じゃあ俺たち一回外に出るから、この機械に名前と役職入力してね」
「あ、は、はい」

 そう言うと、俺だけを残して皆出て行った。國廣は引き摺られていたけど。
 って、……え? 機械? 何それ。
 いつのまにか俺の手にはデンモクのような機械が収まっていた。つ、使い方とかは説明いらないの? っていうか、え、ど、どうしよう…。
 俺は少し緊張しながら、取り敢えず、少し不憫だった國廣の源氏名並びにお茶目書記、と入力する。ぴぴぴ、と軽快な音が鳴った。