「え、チャンス…ですか?」
「うん。君が俺たちの役職を当てることができたら、君の事は諦めるよ」
「え、でもさっき拒否権ないとかなんとか…」
「えへへ、あの時はそう言っただけだよ」

 こ、れは…マジでチャンスじゃないのか? 俺は腐男子だから、こんなの普通に分かっちゃうぞ? あれだよな、ラン先輩は絶対副会長だよな。

「どうする? 別に俺は構わないんだよ、このまま入ってくれても」
「いえ、分かりました、当ててみせます」
「自身ありげだね。うん、じゃあ、ちょっと失礼」

 そう言うとラン先輩は極上の笑みを浮かべて、ズボンのポケットから携帯を取り出した。素早く指を動かすと、それを耳に当てる。

「もしもし、俺俺ー。え、寝てたの? もー、他の奴らは? あ、はいはい、成程。本題入るけど、例の子ね、やるってよ。……うん、うん、了解」

 
 話相手は勿論俺様会長ですね分かります!
 表情をコロコロと変えながら話しているラン先輩から視線を外し、扉を繁々と眺める。凄い、汚れとか落書きとか全然ない。というかそれ以前に何でこんなに扉デカいんだ。ゾウでも通れそうなくらいだぞ。

「開けゴマ!」

 そうそう、この装飾が胡麻に似て……ゴマ? え、ご、ゴマ?
 呆気にとられて目を瞬いていると、ごごごご、という地獄の門でも開くような音を立てながら目の前の扉が開く。……開けゴマって言ったの、さっき?

「蔦森くん、何ぼおっとしてるの? ほらほら、入るよー」
「わ、わわわわ」

 背中をぐいぐいと押され、俺はもたもたと足をよろめかせながら歩く。そのまま部屋へと足を踏み入れると、そこには素晴らしい光景が――。……別に広がってはいなかった。いや、確かに豪華ではあるんだけれど、…。
 部屋の半分が和室だ。茶道具も沢山置いてあるのが見えた。俺は茶道とかあんまり分からないけど、茶筅という竹の道具は見たことがある。あと、何だっけ、抹茶を入れるのが棗と茶入だっけ?
 もう半分は普通に明らかに高そうな絨毯とか、壷とか、シャンデリアとか、そういうものや様々な装飾が施されている。
 …まあ、そこまではいいんだ、うん。和洋の部屋とか割とあるし。問題は…置いてあるそのものだ。壷は体がすっぽりと入れそうなくらい大きくて、色は毒々しい紫だ。なんか、黒魔術とか恐ろしい儀式に使いそうな見た目なんですけど!? 魔女とかが変なスープ混ぜてそうなんですけど!? その他に、犬の置物――しかし顔はオッサンな所謂人面犬で、色は虹色だ。物凄く気持ち悪い――、天使の像――天使って言うより悪魔のような顔つきで、その上腹立つくらいドヤ顔でポーズをとっている――、変な箱――触るな嬉しいと書かれている――そこは危険じゃないの!? 触らないと嬉しいとかドMなの!?
 まだまだ突っ込みたい物が山ほどあったが、その前に低音で艶のある声が俺の鼓膜を震わせた。

「――おせぇぞ、テメェら」