何故こんなことに…。
 道中、ずっとラン先輩が喋っていたけれど、俺は返事を返す余裕さえなかった。どうしよう、どうしたらいいんだ。まさか自分にこんなフラグが立つなんて思ってもいなかった。いや待て、落ち着くんだ、俺。ここは男子校ではない。つまり男イコール恋愛対象というのは例外を除いてない筈だ。うん、そう考えると少し気が楽になった。……ところで、部活に入ってこの平凡な俺に何をしろと…? 雑用…だよな、やっぱり。

「俺の話聞いてる?」
「へっ!? あ、は、はい。聞いてますよ勿論」
「それならいいんだけど、じゃあ、大丈夫?」

 ……ん? じゃあ、大丈夫って、…えーと、なにが?
 俺は思わず立ち止まってラン先輩を見上げると、俺が足を止めたのを不思議そうに見て、首を傾げた。

「どうしたの?」
「え、えーと、だ、大丈夫ですよ」

 少し声が上擦った気がするが、先輩はそれに気づかなかった。キラキラとした笑顔を浮かべ、俺の手を両手でぎゅっと握り締めると顔を近づけた。うおおおお、美形がこんなに近くに! ラン先輩は受けでも攻めでもイケるな! あ、でも俺的にリバは好きじゃないから、どっちかに固定するけど。うーん、他の部員から総受けとかいいかもしれない。それは部員をじっくりと見てから考えようかな。

「え? じゃあやってくれるんだね?」

 ど、どうしよう。今更何をですか、なんて聞けないぜ。俺は引き攣った顔で笑うと、ラン先輩は満足そうに一度頷き、顔を離すとそのまま俺の手を引っ張る。

「有り難うね、助かるよ! ――さてと、予想以上に時間食っちゃったから、早く行かないとなあ」

 あいつら、煩いだろうから、と笑い混じりに言ったラン先輩の背中を見つめる。…あれ、手はいつ放してくれるんだろう…。



「さあ、着いたよ」

 俺は目の前の、同じ校内とは思えないような装飾を施された巨大の扉を見上げ、言葉を失う。…王道とかでよくある設定だけれど、実際にみるとこれは凄いな…。さっきまでの普通の教室や廊下が無性に恋しくなった。

「じゃ、入る前に、取り敢えず、これ見てね」
「えーと、これは…?」

 レストランなんかのメニューみたいな物を渡され、首を傾げる。促されるように見られ、開く。
 腹黒副会長、俺様会長、寡黙長身書記、お茶目書記、悪戯好き双子会計――。まだ文字は綴られていたが、そこまで見て、俺は目を見開く。
 なななななんだって!? こ、これは一体!? 何ですかこの王道は…っていうか、え、生徒会なの!?

「君にね、チャンスを与えるよ」

 にっこりと笑っている顔。どうしてか寒気を感じた。