「嫌だ! この世界で住める気がしねぇ!」
「おいおい、どうした? 今までどこで暮らしてたんだお前」
 バレルが呆れた様子で俺に問うた。俺は焦りと、捌口のない苛立ちで一杯だった。そのまま、勢い良く叫ぶ。

「どこって…日本だ!」
「にほん? そんな変な名前のところ、あったか?」
「いや、俺ぁ知らないが」

 ううん、と腕組みをして悩む様子に、こいつらは俺の世界のことを知らないんだ、と分かった。確かに俺もこの世界を知らなかったし、当たり前なのかもしれないが。

「俺が気になんのはさ、ダイスケの匂いなんだよなぁ」
「匂い? うげ、お前相変わらず変態だな」
「変態じゃなくて、匂いフェチなだけだって!」

 胸を張って自分の嗜好を言うジャックはともかく、早くウサギの言っていたギルドに――っ、そうだ。

「なあ、ウサギの被り物したやつって――」
「ニヒルラビットのことか?」
「ニヒルラビット?」
「知らないって…どんだけ田舎者っていういか、世間知らずなんだよ、ダイスケ…。いや、今はそれはいいか。ニヒルラビットがどうした?」
「いや、そいつを探してんだ。どこにいるか知ってんのか!?」
「そこら中にいるんじゃねえの?」
「……そこら中?」
「珍しくともなんともねえからな。あいつら、不気味なんだよ」

 ……と、いうことはだ。そのニヒルラビットっていうのは、つまり、探さなくともそこら中で見つけることができるのか。姿そのものを見つけても駄目だっていうのは、こういうことか。くそ、と舌打ちをすると、困ったように少女が笑った。

「ダイスケさん…、でしたっけ。紹介が遅れました。アイリーン=ベロブルと申します」
「あ、ああ…瓜生大輔だ、大輔でいい」
「宜しくお願いしますね。それで、えっと…私の推測ではあるんですが…」
「ん? 何?」
「ダイスケさんは…異国人ではないか、と…」

 異国人? 確かにここの奴らは皆外人顔だし、俺は異国人となるのかもしれないけど…。それがどうかしたのだろうか?
 不思議な顔をする俺とは反対に、ジャックとバレルはかっと目を見開いて叫んだ。

「ええええええ!? だだだだだダイスケがぁ!?」
「あの伝説のか!?」

 ……伝説? い、一体どういうことなんだ。さっぱり分からない。

「何でそんなに驚くんだよ?」

 アイリーンに向けて言うと、アイリーンは少し黙った後、こう言った。「ちょっと待っていてください、確か倉庫の中に文献が…」