「用件ね。うん、知らないんだったら仕方ないか。ま、簡単な話、俺たちの部活に入ってよ」

 ……はい?
 美しい顔を充分に輝かせながら放った言葉に、俺は呆気に取られて男を凝視した。部活の勧誘のために態々このクソ汚い字で書かれた紙を俺の下駄箱に? しかも書かれているのが『おめでとうございます。あなたは選ばれました』? いやまず何で俺が選ばれたのかとか、何の部活だとか、お前は誰だよとか、そんな疑問たちが溢れ出てくるんだけど。
 考えれば考えるほど怪しい勧誘(といっても、俺に拒否権はないといったような雰囲気だが)に、俺は繭を顰めて口を開いた。

「他をあたってください」
「何で?」

 ……何で、だと? 寧ろこっちが何で、だよ。

「楽しいよ。退屈させないよ?」
「……そういう問題ではなくて。…そもそも、何の部活なのかはっきりしてくださいよ」
「ええ!? そこからなの!? もー、アッキー、全然説明してないんじゃん」

 蒼い瞳を大きく開いて俺をまじまじと見ると、呆れたように溜息を吐いた男は、ポケットから金色に輝く名刺のようなカードを取り出して、それを俺に差し出した。それを受け取って見てみると、洒落た柄――蝶をモチーフにしたような――の中央に名前が書かれている。

「……源氏名、ラン。……げっ、源氏名!?」
「そ。初めまして」

 源氏名と言えば、安直な考えではあるけど、キャバクラやホストしか思いつかない。
 そこで國廣が言った言葉を思い出した。

「國廣が言ってたホスト部の金持ち組の一人!?」
「あー、そこらへんは聞いてんのね。うん、俺がその金持ち組の一人だよ」

この学校には金持ち何人組だかがいて、ホスト部を作ったとかなんとか……。それに、入部は指名制とか言っていた気がする。宜しく、と差し出された手を一応握って、まじまじと男を見つめる。た、確かに金持ちオーラがあるような気もする…。無様な姿になったこの紙屑も高価なものだったし。
 ……って、あれ? 指名制?
 俺は嫌な予感に顔を引き攣らせながら手元の紙を見た。選ばれました……って、まさか。

「まあそういうことで。部室案内するから来て」
「え、いやいやいやいや! 何故俺が!?」
「だから、入部するんだって。言っておくけど、君に拒否権はないからね。……大丈夫、皆癖あるけどいい奴らだから」
「……何で俺が選ばれたんですか!?」
「ダーツ」
「は?」
「ダーツで決まったんだよ」

 な、何だって? ダーツ? 俺はつまり、俺個人として決められたわけじゃなくて、偶々…決まったってことか?