……つまり、戦闘漫画でいう主人公やそれを取り巻く悪役や味方が存在して、その中の誰か一人に「友人」や「大事な人」のようなはっきりとした枠に入らないといけない、ということなのか。…それは、色々と難しそうだ。だって今でさえ、この目の前のウサギに手間取っているくらいだからな。
 …そういえば、先程あっさりと流してしまったが、オイラたちには家族がいないと言っていた。たちってことは当然複数だし……今から行く世界というのは、このウサギの被り物(仮)の奴ばかりが住んでいるという可能性も無きにしも非ず。それならば二つ目の条件である「オイラを見つけること」というのも頷ける。っていうか、こいつばかりの世界とか考えるだけで気持ち悪い。ある意味ホラーだぞ。
 想像して顔を青くすると、ウサギが小さく笑った。

「冗談、そんなことあるわけないでしょ。流石にオイラもそれ、気持ち悪いよ」
「じゃあ、何で見つけることが条件なんだよ」
「うーん、それはオイラの個人的なものだよ。あ、言っとくけど、見つけるっていうのは視覚的なものじゃないからね」
「は?」
「どうやって見つけたことになるのかは、自分で考えてよ? オイラそこまで優しくないから。あー…と、一つ目の条件ってのも、好成績ってアバウトじゃ分かり難いよね。これは教えとくかな。サラマンダーじゃ温いかなぁ…。じゃあ、ウンセギラを倒すってことで。ギルドでそれを倒す依頼があるか訊いてみるといいよ」
「あ、ああ…そうか」

 サラマンダー…って、なんとなく聞いたことのあるような、ないような。ウンセギラは聞いたことないが。でも名前からして強そうなんだけど、それすぐに倒せるのか?

「おおっと、そろそろマジで時間がやばいかも」

 ウサギはそう言うと、俺の背中に回った。俺が振り向こうとすると、それは鋭い声で制された。「振り向いちゃ駄目だよ、絶対。何があっても」
 俺はそこに少しの緊張を読み取って、振り向きかけた顔を前にやる。目の前は吸い込まれそうなほど深い闇が広がっている。

「…ねえ、さっきはごめんよ。家族のこと。オイラさ、悪かったと思ってるんだよ。……オイラは、だって……――っ」

 息を呑む声。どうしたのかと不安になるが、振り向くなということを思い出して、俺は我慢した。その代わりにどうしたんだと小さく呼びかける。

「な、んでもないよ。うん、なんでもないんだ」
「でも、お前――」
「じゃあ、いってらっしゃい!」
「は……っ!?」

 背中を強く押され、俺は闇の中に落ちた。背後でウサギが小さく何かを呟いたが、それは聞き取ることができなかった。俺は目を強く瞑る。
 暫く落ちる感覚があったが、それがふと無くなる。目、開けたくねえ…。目を開けることを渋っていると、焦ったような人の声が聞こえた。

「あー! そこ、危ないぜー!」

 その瞬間、頭に思い衝撃が伝わり、俺は早々に意識を沈ませたのだった。