モブにならないことって…一体どういうことだ? モブって…あの、モブだろうか。

「これは条件っていうか、絶対守らないといけないんだけどね。モブだと認識されたら最後、もう二度と戻れないし、生きていくことすら困難だから」
「な、何でそうなんだよ? つか、モブって…」
「そうだなあ、キミにとって、唯一無二の存在は家族なんでしょう? つまりはそれ以外は他人――どうでもいい存在ってわけだ」
「他人だからって、どうでもいいってわけじゃねえだろ」
「本当にそうかな? キミは朝ニュース見たりとか新聞を読んだりして情報を得るよね。じゃあ、例えば…ニュースで人が殺されたっていうのを見るとしよう。惨殺死体でも水死体でもいい。キミはそれを見て心を痛める。それで、キミはいつまでもそのことを、ずっとずーっと覚えてるの?」
「それは…」
「覚えてないよね。いつか忘れるんだ。そんなことがあったのも、誰が死んだのかも。余程の重要人物じゃなければ、一生覚えているなんて有り得ないことなんだよ。だって、どうでもいいんだから」
「そうかもしれねえ、だけどそんな言い方はないだろ!」

 確かにそうだ。誰がいつ、どうして死んだのか、なんて…歴史とかそういうものでしか人は故意的に覚えないだろう。

「オイラの言い方が気に食わないならそれでもいいけど。つまりはモブにならなければいいんだよ」
「……なったらどうなるんだ」
「早い話、存在が空気だと思われるんだよ」

 どうしたらウサギの言う「モブ」になってしまうことすら知らないのに、どうやって回避しろと言うんだろうか。
 そもそも、俺がこんなに拒否しないとこの条件の話にもならなかった。そのまま俺は未知の世界に連れて行かれて「モブ」になってしまっていたかもしれないのだ。それにしても空気、とは。益々その世界に行きたくないんだが。

「でも、ならないようにするには、主要人物の一人でもいいから存在を認められなければないんだ」
「は? 何でだよ」
「主要人物がキミをちゃんとした人間として見ているんだから、それはモブじゃないでしょ」