「や、やめろ! ふざけんじゃねぇ!」

 慌ててウサギに言うと、キョトンとした声音で「何でオイラがふざける必要があるの?」という言葉が返ってきた。その言葉に含まれているのは疑問しかない。本気で言っているのだろう。

「何でそんなに怒るかなぁ…」
「何でって…当たり前だろ! 人の命何だと思ってんだ!」
「いのち……いのち、ねぇ」

 酷く興味がなさそうに呟くウサギ。言外に、それで、命がどうしたのとでも言っているようで、俺は何も言えなくなる。相変わらず考えが何も分からない。子供のように無邪気に人を殺すと言っているが、もしかして…本当に子供だったりするんだろうか…? いや、それにしては身長が高すぎる。それはないだろう。

「家族なんていなくなっても、直ぐに忘れるのに」
「テメェ…大概にしろよ」

 "家族なんて"、"直ぐに忘れる"それらの言葉にぶわりと体中が熱くなるのを感じた。なんて残酷なことをいうんだろうか、こいつは。確かに人間というものは昔のことを忘れてしまう――正確には思い出せなくなるらしいのだが、そうだとしても、その言葉は聞き流せない。俺はギロリと睨むと、ウサギは肩を竦めた。


「待った待った、オイラが悪かったよ。生憎オイラたちには家族っていうものがいないんでね。うーんと、じゃあ、こうしようよ。ある条件を満たしたら直ぐにでもキミを帰してあげよう」

 参った。こいつ全然反省していない。
 俺は怒る気も失せて呆れると、しかし、直ぐにでも帰すという言葉に反応する。いや、待て。そもそも、直ぐに、ということはある期間は帰すつもりがなかったということだったのか? 初耳なんだけど、それ。そういうことは初めに言えよ!

「条件、だと?」
「うんうん。満たせたらの話だから、それをちゃんと覚えててね。一つ、キミにはあるギルドに入って貰うんだけど、そこで好成績を収めること。キミは腕っ節が強いそうだから大丈夫だよね? そんでー、一つ、オイラを見つけること」
「明らかに二番目がおかしいんだが」
「まあ取り敢えず聞いてってば。今から言うことが一番大事だからよぉーく聞いてね。一つ、――モブにならないこと」

 ……は?