世界には当然という言葉があって、あらゆる物事がそれに当てはまる。例えば人がニ本足で歩くとか、鳥は翼を持っているとか、そういうのは極自然――読んで字の如く、そうであることに相当する…つまりは、理論上、また、物事の成り行きから考えてそうあるべきことだ。その枠から外れた物は何れも異端として区別されるのだ。例えば同性愛者だとか、オッドアイやアルビノなどの突然変異だとか、障害者だとか。寧ろ当然だと思いこんでいるだけで、それは本当は当然ではないのかもしれない。例外が少数であるが故に、気づいていないのかもしれない。
 兎に角、そういう当然がいつ、その枠に嵌ったになったのかなんて、それはどうでもいいことであるし、興味もない。大事なことは、そういったものを当然だと思っているものが、ある時当然ではなくなると、人はどうなるのかということだ。


 そういえば三十歳まで童貞だったら魔法使いになれるというものがあるが、あれは果たして事実なのだろうか。確かに俺はまだ童貞で、それを確かめることはできるけれど、それで魔法使いになれなかったら人生が狂ってしまうような気がする。というか魔法とかあるわけないし。何でそんなことが広まったのか――何かの陰謀を感じないでもないが、俺は少なくともこういった類のものを信じたことは一度たりともない。神頼みをしたことはないし、宗教もサッパリだ。幽霊とか魔法とか、異世界とか、そういうものを想像するのは夢があっていいと思うけど、俺としては、それで、それが何? だ。非科学的なものを想像して楽しむという根本的なものから存在しないのだろうな、俺には。


 不思議な夢を見た。

「やあ、こんにちは…っていうより、こんばんはかな? 寝てるしね。いや、敢えて時間を先取りしておはようと言っておこうかな」
「……誰?」

 誰、と言うよりは「何」って感じだけど。
 遊園地なんかのマスコットキャラクターでありそうな兎の被り物を着た"人間らしきもの"は闇の中に存在した。服が黒いのか、或いは兎の頭だけなのかは定かではないが、そいつは確かに目の前にいた。

「オイラ? オイラはねぇ、案内人さ」
「案内人?」
「うんうん。君をね、迎えにきたんだ」「迎えに? 何で? どこに?」
「君、質問しすぎだよ。えっとねえ、理由は君が選ばれたからであって、どこにっていうのは――とおーい所だよ」
「行かねえ。帰れ」
「ひどっ! 興味とかないの!? わー、どこだろう、ワクワク! みたいな!」
「ない。俺がそんなキャラに見えんの?」
「うーん、まあ、見えないねぇ」

 自分で言うのも色々複雑だが、俺は目つきが悪い。別に睨んじゃいないのに怖がられたり、不良と認識されたりする。三白眼なのは生まれつきだし仕方ないけどさ。
 今日の――いや、遙か昔からかもしれないが、女は悪い男とかに惹かれるものだろう。それで俺もそうかと問われたら答えは否だ。俺が美形だったら両手に花どころか行列できるほど女を侍らせてるのかもしれないが、俺は目つきが悪い不良という肩書がついた普通の男だ。顔も、勿論性格だって、綺麗好きで、廊下にゴミ落ちてたら拾うんだぜ、俺。なのに見た目の所為かなかなか理解されないんだ。
 喧嘩を買うことはあまりしないが、いきなり向こうが殴りかかってきた場合はやむなく応戦する。そんなことを続けていたら、何故か不良のトップになっていた。噂ってのは…恐ろしい。あることないこと吹聴されてしまった。釘バッドで不意打ちで殴りかかってくるだとか、意識失っても飽きるまで殴るだとか…いや、証拠ないだろ。って感じなんだが。俺そこまで非道じゃないし、っていうか不良たって凄く強い訳じゃない。