――ちりん、ちりん。
 良く分からない違和感を覚えてから数日。俺はあの時の違和感が何だったのかと気づくわけでもなく平和に過ごしていた。
 綺麗な透き通った鈴の音が聞こえる。その発信源はレイからだ。レイが歩くと鈴が揺れて癒しの音色を響かせるのだ。目を閉じ、耳を澄ませてその音を聴いていると、突然背中にずしりと重いものが乗った。ふわりと甘い香りがした。

「ボン様ぁー、遊ぼー」

 俺に負ぶさって体臭――薔薇の香りのように甘い猫なで声を出すバラだ。本人曰く、薔薇が好きで香水まで使っているらしい。娼婦やケバい女の使うようなきつい物ではなく、逆に落ち着ける匂いだ。鈴の音が止むと同時にドアの音がした。出て行ったのだろう。

「何して?」
「そうだなぁー、じゃあ、恋人ごっことかぁ?」
「……え? 何いっ…ぅむ!? ふ、…んん!」
「…は、…ボン様…」
「ぁ、う…」

 熱に浮かされた、蕩けそうな瞳が俺を見つめる。熱い息が唇に掛かってびくりと肩を揺らした。レイにされたものより熱く、そして切ないものだった。
 髪を優しく撫でるとバラはそのまま頭を引き寄せる。ああ、またキスされる――と思って、俺は抵抗することもなく自然と目を閉じた。

「あー! 何やってんだよバラ!」

 しかし俺は苛立ったようなジョンの声でハッと我に返る。今入ってきたのだろう、扉の所で眉を顰めたジョンが立っていた。

「何ってぇ、ちゅーだけどー?」
「何でちゅーとかしてんの!? ボクだってしてないのに!」
「えー、したいのぉ?」
「したいよ!」

 したいのかよ。俺たちは男同士なんだぞと言いたいが、それよりもまず俺たちは同じ顔なんだぞ? 何でキスしたいって思うのかがわからない。いや、受け入れてる俺も俺か…。

「ボン様! ボクともしよう!」

 キラキラと輝いている目を向けられ、俺は口を引き攣らせ、諦めの溜息を吐いた。それを合図にジョンが犬のように跳びついてくる。耳と尻尾が嬉しそうに動く幻覚を見た。

「ボン様ぁー次は違う遊びしよーね」

 色々複雑な心境だ……。