数日が経った。あれから俺の相似たちは部屋に居座っている。どうやら彼らの家は遠くにあるようで、偶々出会った時から何故か俺の部屋に住むことを決定していたようだ。俺はそんなこと認めたつもりはないし、というか何の断りもなかったが、不思議と嫌だとは感じなかった。寧ろ、なんだろう……安堵すら覚えるのだ。それに懐かしい感じもする。
 まあこの家には俺しか住んでいないわけだし、別にいいのだけれど。


 俺は本を読んでいた。内容はあまりにも幼稚なもので早々に飽きたのだけど、他に読むものもすることもなかったしダラダラと文字の羅列を追っていた。バラは我が物顔で俺のベッドに寝転んで漫画を読んでいる。レイは相変わらず煙草を吸っていた。
 しんとした室内で時間が経つばかりだったが、いきなりケーキの箱が目の前に現れ、小さく揺れた。俺は本を閉じて顔を上げる。ジョンが爽やかに笑っていた。

「ボン様、ケーキ食べる?」

 そのケーキの箱には見覚えがあった。四葉のクローバーの葉が一つだけ赤いハートマークになっているマーク。と間違いない、俺が以前によく行っていた店の物だ。果たして偶然なのか、或いは――…その時、言いようのない不安がぞくりと俺を襲う。このケーキ屋は俺の家から五キロ離れた所に建っているのだ。通販は取り扱っていない。だからそのケーキ屋に行くにはどんな方法でも――最短で三十分はかかるのだ。しかしジョンが出掛けた形跡は見当たらない。
 …いや、それもあるが、何らかの手段でケーキを手に入れたと仮定しても、俺はそれを許すことができない。"ジョンは間違いなく一人以上に会っている"のだ。それも、俺と同じ顔で。会った人物が赤の他人だとしても、俺を知っている奴が、ジョンを見かけたら……。

「ボン様?」

 訝しんだ声音で俺は漸く我に返った。いつの間にか俯いていたようだ。漫画を熱読していたバラも、煙草を吸っていたレイも俺を見つめる。

「あ、ああ。食べる」

慌てて笑みを貼り付けると、ションはぱっと顔を綻ばせた。ジョンは飼い犬から名前を取ったと言ったが、ジョン本人も犬みたいに懐っこい。