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「よ、今日遅いじゃん」

 何を言われるかと構えていたが、加治は普通に挨拶をしてきた。俺は呆気にとられて加治を見つめる。

「なに、その顔」
「あっ、いや別に……」
「ふーん?」

 もしかして俺を助けてくれたのか…? なんて都合のいい解釈をする。加治はにこりと笑って俺の腕を掴んだ。

「で、なに俺の許可なく絡まれてんの?」

 前言撤回しよう。……自分がいじめたいだけなようだ。

「はー、情けないね、元魔王が」
「俺は魔王じゃない」
「何今更否定? 遅いよ」
「ちが……元魔王だったかもしれないけど、今は関係ないし」
「ま、そうだけどね」

 加治は鼻で笑う。そして俺の腕を掴んだまま歩き出すので、俺は慌てて手を振り払おうと動かした。しかしそうすることで余計に手の力が強くなる。

「ちょっ…」
「行くよ」
「な、何で手……」
「だってお前遅いもん」

 じゃあお前先に行けよ。俺は引っ張られながら心の中で呟いた。

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