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 ぼーっとしていただけなのに時間がこんなにも経っていたとは。「ありがと、起こしに来てくれて」そう言うと兄貴は頷いた。

「兄貴は今日休み?」
「うん。まあバイトだけど」

 兄貴は肩を竦めると、にこりと微笑んで部屋から出ていった。俺はそれを見届けて服を脱ぎ、制服に着替える。そして鞄を持ち上げる。教科書を詰め込んでいるせいでずしりと重い。そしてそれを持つ俺の気持ちも重い。しかし早く行かなければ遅刻してしまう。
 俺は部屋を出て、リビングへ向かった。







「お、平山じゃん」

 登校中、後ろから声をかけられびくりと肩が跳ねる。振り向くと、嫌な笑みを浮かべたクラスメイトがいた。名前は忘れたが、加治と一緒にいることが多いやつだ。
 加治でないことを確認した俺はさっと前に向き直り、足を再び動かす。

「おい、無視かよ?」

 がしっと肩を掴まれる。指が食い込み、俺は顔を顰めた。

「お前、まじ鬱陶しいわ。いるだけで教室の空気悪くなるんだよ」

 そんなこと言われても。俺は溜息を吐きたくなる気持ちを抑えて黙って話を聞く。

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