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 勇者……? 俺は言われた言葉を頭の中で繰り返し、さあっと血が引いた。

「ゆっ、勇者……っ」

 まったく勇者っぽくないどころか、魔王のような男が。勇者だなんて。靄がかかっていた勇者の顔が鮮明になり、脳裏に加治そっくりの男と対峙している様子が浮かんだ。どうして忘れてしまっていたんだろう。昔から魔王のような男だったのに。
 いや、――待ってくれ。加治はいつから俺が魔王だと気付いていた? 最初から?

「もしかして俺が魔王だったからこんな……」
「漸く気付いた?」

 にいっと黒い笑みを浮かべる加治。本当に今更だが俺がいじめられた理由を知ることができた。

「……ま、それだけじゃないけど」

 加治はぼそりと呟く。その言葉の意味が分からず、俺は少し眉を顰める。加治は意味深な笑みを浮かべると、何も言わず踵を返し、教室を出ていった。
 はあっと大きく息を吐く。どっと汗が出てきて、俺は床に座り込む。

「最悪だ……」

 俺は深い溜息を吐いた。

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