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何にせよ俺にとってこれほど最悪な事態はない。俺はがくがくと震える足で後退る。ゆっくりと近づいてくる梶加治が恐ろしい。
「だっ……誰なんだ…」
「あ?」
加治はぴたりと足を止める。眉を顰め、いかにも不機嫌ですという顔で俺を見た。
「何言ってんの」
「何って、そ、そのままの意味だけど…」
「……お前、ほんとそういうところが…っ!」
「っ!」
がっと胸ぐらを掴まれ、俺はびくりと震える。加治の端整な顔が歪む。怒っているが、どこか傷付いているようにも見えた。
って、加治の顔を観察している場合ではない。苦しい。
「俺のことなんて、いつも眼中になかったよな」
吐き捨てるように言うと、ぐっと加治は顔を近づけた。近すぎて輪郭がぶれ、俺は目を閉じた。その次の瞬間、唇が何かで塞がれる。目を見開くと、勢いよく突き放された。
「俺は――勇者だった男だ」
梶は呆然とする俺に言い放った。
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