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 反応しない俺に飽きたのか、いつの間にか加治は俺の前から消えていた。俺はのそのそと自分の席に向かう。机には落書きがそこかしこに書かれてあり、机の中にはゴミが入っていた。教科書はもちろん毎日持って帰っている。慣れたもので、俺は無言で片付ける。落書きは無視。どんだけ消してもまた書かれるから。
 さて。教室での俺の立場だが。基本的にいないもの扱いされている。加治を除いて。あいつは本当に俺のことが嫌いなんだろうな。俺がどんだけ無視しても執拗にいじめてくる。しかも。

「平山、宿題見せて」

 ――前の席は、何を隠そうこの加治である。俺は鞄からノートを取り出すとそっと加治に手渡した。……このノート。無事に返ってくるかな…。今日は確か当たるはずだから、返ってこないとまずい。俺は静かに溜息を吐いた。











「平山ー、掃除宜しくー」

 けばけばしいおんなが俺に箒を押し付け笑いながら出ていく。今週もまた俺が毎日掃除当番になってしまった。おかげで掃除が上手くなったぞ…。まあ無駄なスキルではないからいいけどさ。ちょっと楽しくなってきたし。
 誰もいなくなった教室でふんふんと鼻歌を歌って床を掃く。

「平山ってさー」

 びくっ。完全に油断していた俺は大袈裟なほどに大きく肩を震わせた。振り向くと、窓枠に肘を置いて笑う悪魔の姿があった。

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