勇者こそ魔王の器

前世の記憶あり/元勇者×元魔王/いじめっ子×いじめられっ子/視点入れ替わり






 前世なんてもの、ないと思っていた。思っていたというのは過去形なわけで、つまり今は思っていないということである。俺は突然思い出した。――自分が違う世界で魔王であったことを。周りから地味眼鏡と言われいじめられているこの俺が。魔王。そんな馬鹿な。
 魔王といえば勇者。RPGではセオリーである対立関係。魔王をしていた俺にもそういう相手がいた。正しくその勇者である。その勇者の顔は靄がかかったように思い出せないが、…勇者も俺のように生まれ変わり、また前世の記憶を有しているのだろうか。だとしたら、俺を見たら腹を抱えて笑うだろう。数多の魔物を従え、民を恐怖に陥れた魔王がなんという体たらくだと。
 前世の記憶を思い出したといっても、何も変わらない。俺がいきなり強くなんてなるわけないし、堂々とできるわけもない。

「はあ…」

 学校、行きたくないな…。











「平山、おはよう」

 びくり。教室に入った瞬間かけられた声に反応し体が震える。俺は恐る恐る声の主を見上げた。優男風の男がにこりと笑って俺を見下ろしている。爽やかで人気者の加治。――俺は一番こいつが恐ろしい。何故なら。

「おい、返事は?」

 笑顔で圧力をかけられ、俺はか細い声で挨拶した。――何故なら、こいつがいじめのリーダーだからだ。これが腹黒というのだろう。加治は震える俺を鼻で笑う。俺は前世が魔王だなんてことが自分の妄想で、こいつこそが真の魔王だったのではないかと思った。しかし妄想と言うには鮮明過ぎていて、やっぱり魔王だったんだと今では思っている。…それにしても、何で勇者の顔だけ分からないんだ。側近の名前や顔はしっかりと思い出せたのに。

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