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「俺よく考えたら好かれたのって初めてだし…」
「あ?」

 黛は眉を顰める。そして俺を睨みつけてきた。

「お前、俺のことなんだと思ってんだよ」
「あ、いや」

 俺は照れ笑いを浮かべる。「なんか、自分で黛に好かれる…とかいうの照れるし」

「実際、黛以外に好かれたのは初めてだし…」
「だから何だよ」
「こんなこともうないだろうなあって…」

 しみじみと呟くと、黛は「は?」と口にした。

「あってほしいのかよ」
「ち、違う! そういうわけじゃなくて、ただ感想的なもので」
「どうだかな」

 黛はふんと鼻で笑うと、立ち上がる。どこに行くのかと訊ねると、昼寝するという答えが返ってきた。怒ったわけではなさそうだ。というか、今の笑い方は馬鹿にするというよりも、からかってきただけのような感じがする。何というか、表情が柔らかいのだ。

「黛、夕飯はどうする?」
「……ラーメンでも食いに行くか」
「うん、行く!」

 俺は笑みを浮かべて答えると、黛も口角を上げた。そのまま部屋に入っていく黛を見送り、ドアが閉まった瞬間俺はでれっと顔を更に崩れさせる。やばい、黛が優しい。俺前より黛のこと好きではなくなったと思ったけど、ダメだ。前より好きになったかもしれない。やっぱり俺って単純なんだろうか。

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