黛編

「――やっぱり、送って貰うのは申し訳ないし、ここでいいよ」

 正門で白川に告げると、見るからにしょぼくれた顔をされた。

「僕が送りたいだけなんだけどなぁ」
「……ごめん、白川の気持ちは嬉しいんだけど」
「うん、……しつこくしちゃってごめんね。今日は諦めるよ」

 白川は苦笑すると、俺に手を振った。「じゃあ、またね」頷くと、白川は去って行った。その背中を少しの間見つめ、俺も家に向かって足を進める。
 昨日黛が帰って来たのなら、家が散らかっているはずだ。掃除して、今日の夕飯をどうするか考えよう。

「はぁ」

 俺は静かに溜息を吐いた。白川を傷つけただろうか。でも俺たちはまだ付き合ってるわけじゃないし、白川は俺のことを好いてくれているわけで…。やっぱり長いこと一緒にいるのはあまり良くないだろう。黛はそんなこと関係なしに好き勝手やってるけど、俺は付き合って貰ってる側なので止める権利なんてない。







「やっぱり帰って来てたんだ…」

 どこに行ってた、って訊かれたもんな。そりゃ帰ってるか。散らかってるどころか暴れた形跡があり、俺はがっくりと肩を落とす。しかし、女を連れ込んだ様子はない。それだけはほっとした。
 ――よし、片付けるか。俺は鞄を置いてゴミを拾い上げた。

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