10

 走って、走って――走り続けた。

「……あれ、宇津木くん?」

 背後から話しかけられ、我に返って辺りを見回す。いつの間にか白川のアパートまで来ていたようだ。良く来る場所でもないのに、無意識にここに来るとは。

「ど、どうしたの?」

 振り返り、白川を視界に入れた。買い物に行っていたのかビニール袋を持っている。俺は荒い息を吐きながら口にした。

「み、水…」

白川は目を丸くした。







 白川に水を受け取り、ぐいっと飲み干す。喉が潤った。

「っはー、生き返る…。ありがとう、白川」
「ううん、良いよ。……僕に何か用でもあった?」
「ええっと…その」
「うん」

 白川にじっと見つめられ、思い出したように心臓が騒ぎ出す。別れてきた。お前が好きだ。まだ俺のことが好きなら付き合ってほしい。言いたい言葉が中々出てこない。

「わ、……」
「うん」
「……えーと」
「ゆっくりで良いよ」

 頷き、心を落ち着かせる。俺はふうと息を吐いて白川の目を見つめる。

「俺…あいつと、黛と別れてきた」
「……え?」

 白川吐いて驚いたように目を見開いた。

「それで、その」
「本当に?」
「え、う、うん」
「どうして――」
「白川のことが好きだから」

 恥ずかしくて早口で言って、俯いた。顔が熱い。白川の顔を見ることができない。

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