8

 家に帰りながら月島の言葉を思い出す。…そうだよな。白川は良い男だ。俺たちがどうこうというより、周りが放っておかないだろう。

『ごめん、やっぱり違う人を好きになったんだ』

 そう言って誰かの肩を抱き去って行く白川の姿を思い浮かべた時、ずきりと胸が痛くなった。黛が浮気した時と同じ痛みだ。――俺は、白川のことが好きなのか? 白川のことを考えるだけで胸が痛くなったり騒がしくなったりする。

「う、うわあ」

 俺は熱くなる顔を両手で覆う。自覚した途端恥ずかしくなってきた。俺は立ち止まると、ぱっと両手を顔から外して、スマホを取り出す。深呼吸をして――よし、と意気込む。

『今時間あるか? ちょっと話したいことがあるんだけど』

 送って、もう一度深呼吸。返事は思ったより早かった。

『何、今言えよ』
「そういうわけにはいかないんだよ…」

 俺は黛の淡白なメールに溜息を吐いた。

『直接話したい』
『じゃあさっさと帰ってこい』

 今度は安堵の息を吐く。俺は了解と送り返すと、スマホを仕舞い、リュックを背負いなおした。前を見据えて力強い一歩を踏み出す。








 家に着くと、ソファに座っている黛がじろりと俺を睨んだ。

「で、何だよ」
「――俺と、別れてほしい」

 一瞬の間。黛は目を見開き、俺を見つめた。

「……は?」

 あ、そう、とだけ言って終わると思っていた俺は、予想外の反応に動揺する。

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