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 ガチャンと音がして、俺はハッと目を開ける。部屋の中が暗い。いつの間にか寝ていたらしい。俺は急いで起き上がり、カーテンを閉める。電気を点けてスマホで時間を確認すると、もう二十時を過ぎていた。
 今の音は恐らく黛が帰ってきた音だ。心の準備が出来ていないまま帰ってきてしまった。……しかも、一人とは限らない。トントンという足音が近づいてくる。それが大きくなるにつれて、俺の心臓も激しく鳴り始める。
 足音は俺の部屋の前で止まった。ぎゅっと目を瞑るが、開ける気配がなく、俺は恐る恐る目を開いた。……もしかして、俺の部屋の前にはいない? しかし部屋に入った様子もない。耳につく女の甲高い声もしない。
 ほ、ほんとに黛だよな……? 俺は別の意味で怖くなった。

「おい」

 ひ、と小さく声が出る。低いそれは、確かに黛の声だ。

「いんだろ、出てこい」

 しかも怒っている。無反応だと何をしでかすか分からない。俺は慌ててドアを開けた。

「な、なに」

 少しだけ開けて顔を出すと、顰めっ面の黛が無理矢理ドアを全開にした。

「お前、どういうつもり」
「ど、どういうつもりって」

 ど、どれのことだ? 白川と一緒にいたこと? あそこで黛についていかず帰ったこと? なんにせよ、俺を嫌っている黛がここまで怒っている理由が分からない。

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