白川編

 結局家まで送ってもらった俺。白川に礼を言ってマンションの中に入ろうとした俺を白川が引き留める。

「あのさ、今週の土曜日って暇かな?」
「土曜? あー、うん、暇だけど」
「じゃあ出掛けようよ」

 これって、つまり…デートに誘ってきてるってことだよな。俺はぎこちなく頷く。

「やった。じゃあ連絡――ああ、そうだ。連絡先を教えてもらってもいい?」
「ああ、うん」

 俺はスマホを取り出すと、白川と連絡先を交換する。数少ないアドレス欄に白川の名前が入って、俺は嬉しくなった。

「行きたいところとか、考えておいて。勿論なくてもいいけど」
「ありがとう」

 白川は今度こそ、じゃあと言って帰っていく。……一応恋人がいるのに自分のことを好きなやつと出掛けるっていうのは浮気行為……だと思うけど、黛だってこれ以上のことをやってるんだ。俺だって……。
 俺は考えるのを止め、マンションに足を踏み入れる。郵便物を取り出し、 エレベーターに乗る。

「ふう……」

 黛が帰ってきたらどうしようか。恐らく顔を合わせる可能性は少ないが……帰って来て叩き起こされるのも嫌だ。一応待ってみよう。
 俺は鍵を開けて部屋に入ると、自室へ直行してベッドにダイブする。…それにしても、疲れた。白川に会えたことは良かったけど。スマホの画面を見て、俺は知らずうちに笑みを浮かべていた。

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