9

「……っはぁ」

 俺は思いっきり息を吐く。無意識のうちに息を止めていたようだ。ぜえぜえと息をする俺を白川が心配そうに見た。

「大丈夫?」
「ん、んん……大丈夫。俺結構緊張してたみたい」

 はは、と苦笑を浮かべれば、白川は静かに首を振った。

「ええと……そうじゃなくて、黛くんのこと。怒らせちゃったし…ごめんね、変な空気にしちゃって」
「あ……いや、大丈夫。ごめんな、あいつ…色々好き勝手言って」
「何で宇津木くんが謝るの? 僕は全然気にしてないから大丈夫だよ」

 ……良いやつだよなぁ、やっぱりそれに……こんなに想ってくれる人は初めてだ。今更ながらにどきどきとしてくる。あの機嫌の悪さ。今日ももしかしたら黛遅くに帰ってくるかもしれないな。…それとも帰ってこないか。機嫌が悪い日は喧嘩したり女の匂いを漂わせて朝帰りしたりしてくるのは、もう何度も経験済みだ。――機嫌が悪くても、俺に手を出して来たことはない。そんなところも好きだったんだけど……。いや、好きだったんだけどって。違う違う。まだ好きだし。だけど、でもない。
 俺は考えを振り切るように頭を振って、白川を見上げる。

「そういや、白川って黛と同じくらいなんだな」
「確かに目線は同じかも。黛くんって何センチ?」
「確か――、一八〇センチだったかな」
「ああ、それじゃああんまり変わらないね。僕もほとんど一八〇だから」

 やっぱり。どおりで首が痛いわけだ。俺も一七五センチはあるけど、黛や白川の隣に並ぶと、俺が凄く小さく見えて悔しい。

[ prev / next ]



[back]