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「僕は宇津木くんが好きで一緒にいるんだ。……きみとは違ってね」

 黛は一瞬だけ目を見開いて、不愉快そうに顔を顰めた。しかしすぐに口角を上げて

「…そいつが好きとか、お前趣味悪いな」
「そう? こんなに可愛いのに、黛くんこそ趣味が悪いんじゃない?」
「んだと?」

 お、おいおいおい。俺は二人に口を挟めず、だらだらと汗を流した。周りの人はバチバチと火花が散っている二人に興味を示して遠くから見ている。ただでさえ目立つ二人だ。俺も皆の立場だったら野次馬しているかもしれない。
 居心地の悪い俺に気づいたのか、白川が俺の背中をぽんと優しく叩いた。

「――もういいかな? 早く帰りたいんだけど」
「…じゃあそいつ置いてけ」

 びくりと肩が跳ねる。何で俺を? 黛の考えが分からない。

「置いていくわけないじゃない。宇津木くん、行こうか」
「う、うん……」

 俺は頷いた。黛は俺が残ると思っていたのだろう。目を見開いて俺を見つめた。その間に俺たちは黛の横を通りすぎる。――黛は追いかけてこなかった。

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