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 結局講義に黛が現れることはなく、俺はほっとしたような残念なような気持ちを味わっていた。

「白川はこの後もう何もないのか?」
「うん、これだけ」
「月島は――」
「あ、今日はサークルの奴らとカラオケ」

 いつもは月島と帰っていたが、月島は今日用事があるようである。ちなみに月島はバドミントンサークルに所属している。

「そっか」
「宇津木くん、良かったら一緒に帰らない?」
「勿論、といってもすぐ別れることになりそうだけど」

 そこまで言って、じゃあ、と手を挙げ月島と別れる。俺は白川の隣に並んで歩き始めた。

「送るよ」
「へ? いや、いいよ。反対だろ」
「そんなに遠くないよ。っていうか、僕がきみと一緒にいたいだけなんだけど」

 うわ。うわわ。俺は顔が熱くなるのを感じた。そんなこと、言われたことがない。――ほんとに白川って、俺のことが…好きなんだ。改めて好意を感じ、それまで意識してなかったというのに、現金な俺の心臓はドキドキと高鳴った。

「あの、白川――」

 呼んで、言葉が止まる。白川が前方を睨むように見ていたからだ。俺はつられるように白川の視線を辿って、目を見開く。

「ま…黛」
「……お前、昨日どこに行ってやがった」

 ギロリと睨まれ、俺が何も言えないでいると、視線は俺の隣に移った。そして馬鹿にしたように鼻で笑う。

「お前、こいつがどんな奴か知っててそこに突っ立ってんの」
「…知ってるけど、それが何?」

 冷たい声。知り合ってから初めて見る敵意の表情と声に、俺は目を奪われる。白川の返答が気に食わなかったのか、黛は舌打ちした。

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