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「はい、どうぞ」

 白川はドアを開けると、俺を促した。俺はごくりと唾を飲み込んで、お邪魔しますと口にした後部屋に上がる。帰りたくないと言った俺に対し白川は、それならば自分の家に来ればいいと提案した。そして二つ返事でオーケーしてしまった俺。部屋を目前にし、選択を誤ったのではないかと後悔する。しかしここに来るまで酔っぱらっていたせいか、記憶があまりなく、どうやって帰ればいいか分からない。同じ大学だし、そんなに遠くないとは思うんだが、暗いから周りも良く分からない。タクシーを使おうにも金もない。白川に言えば帰り方を教えてくれるのだろうが、ここまでしておいてもらって、今更言い出すのも引ける。…つまり、俺は、ここに泊まるしかないということだ
 白川の家はどこにでもあるアパートだった。俺たちが住んでいるところより少し狭いというくらいか。ちなみに俺は学生マンションで部屋を借りている。
 部屋の中は綺麗に片付いていて、物はあまり多くなさそうだ。意外性はない。そんな感じはしたし。勝手に座るわけにいかず、鍵を閉めている白川を立ったまま待つ。やがて近づいてきた白川は、にこりと笑ってクッションを手に取り、それを俺の足元へ置く。

「さ、座って座って」
「あ、ありがと…」

 俺が座ると、小さなテーブルを挟んで向かいに白川も腰を下ろす。

「そうだ、何か飲む? それとももう眠いかな」
「……いや、なんかあんまし眠くない…」
「僕も。…お茶で良い?」

 そういえば喉が渇いた。俺はこくりと頷く。白川は立って冷蔵庫へと歩いていく。――見れば見るほど、黛とは正反対の男だ。あいつは俺のために茶なんか持ってきたことないし、クッションだって渡さない。そもそも笑いかけない。……ほんと、なんで俺あんな奴が好きなんだ。
 溜息を吐いていると、白川がコップを両手に持って戻ってきた。

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