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「あ、そ、そう…」

 俺は何と返したらいいか分からず、曖昧に笑う。白川は俺の手を取ると、優しげに笑う。

「ねえ、黛くんなんて酷い男はやめて、僕と付き合わない?」
「は、はあ!?」

 驚いて目を見開く俺に対し、白川はにこにこと笑みを浮かべている。俺の手は握ったままだ。俺は特別容姿が整っているわけじゃないし、性格が良いわけでもない。このようなイケメンに好かれる要素なんてないのに。からかっているのか、なんて思ったけど、そういう風にも見えない。

「ええ、と…あの、白川…」
「――ごめん、急すぎたよね。今は別に黛くんのこと、好きでもいいよ。でもよく考えてみて。僕、待つから」

 ね、と真剣な表情で言われ、一瞬黛は俺のことなんて好きじゃないし、この男と付き合った方が、なんて馬鹿なことを考えてしまった。黛がどれだけ俺のことが嫌いでも、俺はやっぱり……あいつが好きなのだ。

「……ごめ――」
「謝らないでよ。言ったでしょ? 待つって。僕って結構しつこいんだ」

 おどけたように言う白川に俺も思わず笑みを浮かべる。いつの間にか、黛に言われて傷ついていた胸が癒えていた。
 良いやつそうだ。俺は警戒心を解いて、それから数時間白川と語り合った。












「そろそろ帰ろうか――」

 白川は腕時計を見た後、俺に話しかける。気が付けばもう二十三時半だった。ほろ酔いでいい気分だった俺の気分は一瞬で沈む。

「…? 宇津木くん?」

 白川は不思議そうに俺の名を呼ぶ。実は俺は、黛とルームシェアをしている。と言っても家事とかは俺が全部やってるから使用人みたいなもんだけど。でもそれがルームシェアする条件でもあり、俺たちが付き合っている理由でもある。つまりは俺は利用されているだけであり、勿論体の関係なんてものも一切ない。それどころか俺の許可なく色んな女を部屋に入れては俺に見せつけるかのように抱いている。
 黛に寄り添っていた女を思い出す。今日もホテルか部屋でヤっているんだろう。

「帰りたくない…」

 涙声で言った俺を、白川が驚いたように見下ろした。

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