▼ 44
なんとかハジメの家から脱出できた俺は、家を出た瞬間に大きく息を吐く。改めて外を見ると、薄暗くなっていた。
「……早く帰ろう」
「そうだな!」
じゃ、と俺の腕を掴んだハジメは歩き始める。…もう、絶対来ないぞここへは。ハジメと父親がいたからいいけど、あの男と一対一になったら恐ろしい目に遭いそうだ。
「なあ、日が暮れたらって言ったけど、これはまだ大丈夫なのか?」
完全には暮れていない空を見上げながら訊ねれば、ハジメは無言で俺を見つめた。こいつが質問した後にこの顔をする時は大抵、何かある時だ。
「えっと……聞きたい?」
「い、一応」
「……丸飲みするヘビとか、えーと、魂を吸う――」
「あ、もういいです」
俺は手でハジメの口を塞いだ。
「……つ、疲れた……」
帰り道は生きた心地がしなかったが、五体満足で人間界へ戻ってくることができた。例の神社だ。相変わらず人の気配がない。
「って、あれ? そういえばお前って瞬間移動みたいなのできなかったっけ」
「おれはできるけど、かずひろはできるかわかんねー」
「あ、なんだ……そうか」
できるなら怖い思いをせずに一瞬で帰れたのにと思ったが、ハジメだけ帰って俺だけ残されたら最悪だ。
[ prev / next ]
[back]