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「い、いやあ…」
「兄貴! かずひろはおれの大事なやつなんだ!」
「ハジメ…」

 俺の前に出て怖いと言っていた兄貴から守ろうとしてくれているだろうハジメ。その姿に思わずどきりとする。よく漫画とかでこうやって女性を守るシーンがあるが、その女性キャラの気持ちが今ならわかる。これはどきっとするわ。

「だから、そのー、見逃してくんね?」

 がくり。……い、いきなり情けなくなるなよ!

「…はぁ? んな大事なわけ?」

 ハジメの体で見えていないはずなのに、睨まれているような感じがする。ハジメは俺の前で大きく頷いた。

「――そういうわけだ、さぁ、かずひろ、帰るんだろう。ハジメも支度しなさい」
「あ、はい」

 ハジメの父親がパンと手を叩くと、鋭い視線が俺から外れた。そしてチッと舌打ちする音が聞こえた。怖い、怖すぎる。
 ところでハジメの兄貴って血は繋がっているんだよな? 父親とハジメは単眼で兄貴は多眼なんて、そういうこともあるんだろうか、こいつらにとっては。…まあ目っていうところは同じだしあるのかも。関わりたくないしもう気にするのはよそう。
 立ち上がり、ハジメの背中を押す。早く帰りたい。つーかやっぱり来るんじゃなかった。

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