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「ちょ、え、おま、帰らないって」
「あー……まー兄貴気分屋だし」
「どどどどうすんだよ!」
「あ? なに? 客でも来てんの」

 ハジメの肩を掴んで揺さぶっていると、背後から声がかかった。

「えーと、兄貴、かずひろ怖がってるからひとまず離れてくんない?」
「かずひろ、ってそれのこと?」

 視線が背中に刺さる。俺は恐る恐る振り向いた。そしてぎょっと目を見開く。

「――え、人間じゃねーか」

 サングラスをかけたそいつは――ハジメや父親とは違い、目が顔中に存在した。大きくはないが複数の目が自分に向けられ、恐怖を覚える。

「あんまり見んなって!」
「いや、見るだろ。俺初めてこんな近くで人間見たんだぞ」

 どうやら好奇心があるだけで、俺に危害を加えようとしているわけではないらしい。そのことにほっとするが、さきほどのハジメや父親の反応が気になる。

「…あっ、そろそろ帰るか? かずひろ」
「……そうだな、そうした方がいい。日も暮れる」
「んだよ、泊まってけばいいだろ。なぁ、かずひろ」

 にやりと笑う口。俺は引き攣った顔で固まった。


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