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 俺より一メートルほど大きい体。大きな一つ目。渋い着物。落ち着きつつも威圧感のある雰囲気に俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「――久しぶりって…」
「おまえは覚えていないか」

 ふ、と口に浮かぶ笑み。俺の頭にハジメの父親の声が再生された。

『おまえ、おれが見えるのか』

 そうだ。この前――夢で見たあの光景。俺は確かに、この男に会っていた。

「あれは夢じゃなかったのか……」
「思い出したか。…おいハジメ、和宏に迷惑はかけていないだろうな?」
「え、かけてねーよ」

 ……かけられている気がするが、まあいい。黙っておこう。

「そうか。……さて和宏、ゆっくりしていってくれ」

 父親が口元に笑みを浮かべ、片手をすっと挙げた瞬間、奥のドアがゆっくりと開いた。





 中も意外に普通だった。俺たちの生活とあまり変わらないのかもしれない。

「何か飲むか?」
「あ、いえ…お気持ちだけ…」

 ……食べるのはちょっと怖いな。黄泉の食べ物って食べちゃいけないし。ここ黄泉じゃないけど。

「そうか」

父親は頷くと、俺たちの前に座った。

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