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 俺はぎょっと目を見開いた。

「え、ええ…!?」

 今まで境内にいたはずなのに、目を瞑って次開けたら違う場所にいたとか、漫画や小説の世界みたいだ。

「はは、かずひろびっくりしてらー」
「いやそりゃびっくりするだろ。…こ、ここがそうなのか?」
「そ。あそこが入り口になってるんだよ」

 へえ、と周りをきょろきょろ見回してみる。一見普通の森…だけど、普通じゃない生き物がいるんだよな。

「んじゃ、おれからはぐれるなよ―」

 ハジメは俺の腕を掴んだままだ。頼むからこの手を放さないでくれよ…。

「…その、ここには人間を食うやつも住んでるんだよな?」
「まー、そりゃあな」

 そりゃあなじゃねえよ。もうちょっと誤魔化すとか隠すとかしてくれ。…ってハジメにそんなこと願っても無理か。

「だからおれからはぐれるなよって言ったんじゃん?」
「まあそれもあるだろうけど…その、人間を食うやつが襲ってくることとかは?」
「おれがいる限り大丈夫だって」

 …もしかして、ハジメって凄いやつなのか? めちゃくちゃ強いとか…。権力者の身内とか。俺はハジメの後姿を見つめる。後ろから見たらパーカーを着た普通の男だ。……どう見ても凄い強いようにも権力者の身内にも見えない。

「…ちなみに、どれくらいかかるのか?」

 俺は不安になって、訊ねてみた。ハジメは、んー、と数秒考えた後、首を傾げた。

「あと一時間もあれば着くんじゃね?」

 ……なんでそんなアバウトなんだよ! っていうか一時間もかかるのかよ!

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