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 それから一週間経った日のことだった。ハジメからとんでもない言葉が出てきたのは。

「親父に会わせたいから、おれの家いこーぜー」
「はあ?」

 俺は読んでいた本から顔を上げ、眉を顰めた。

「なんかお前俺のこと知られたくないとかなんとか言ってなかったっけ、随分前だけど」
「それは兄貴! 親父はまた別だって。それに、親父から言ってきたし」
「……え、なにそれ余計に嫌なんだけど…」

 気に入らねえとか言って殺されたらどうしよう。ぞっとして首を横に振ると、ハジメがにいっと笑った。

「だいじょーぶだって! 親父、かずひろのこと知ってるみたいだし」
「な、何で?」
「さー、おれもよく知んねえけど」

 お前、そこは聞いとけよ! がっくりと肩を落とす。……それにしても、ハジメの家か。どういうところに住んでいるんだろうか。まず世界が違う…よな? ハジメ以外に見たことがないし。そんなところに俺がまず行けるのかどうかが分からないし、行ってハジメとはぐれでもしたら…。
 嫌な想像をして、俺は口を閉ざす。

「そいつがこっちに来るのはだめなのか…?」

 会いたいっていうなら、そっちから来ればいい。そうだ、それがあるじゃないかと思って提案すると、ハジメは困り顔をした。

「んー、どーだろーなー。親父、全然外出ないしなあ」
「…え、引き籠り…?」
「引き籠ってるわけじゃなくて…」

 もごもごと言った後、ハジメは苦笑した。「ま、とにかく親父を呼ぶのは難しいわけ。だから、かずひろ、な? 行こうぜ」
 お願い、と手を合わせるハジメ。どうやら、折れる気はなさそうだ。俺は数秒間悩んで、渋々頷いた。

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