29

 大学に着くと、山本のもとへ向かう。どうやら食堂にいるようだ。俺はなあなあとさっきから煩く話しかけてくるハジメを無視して山本の姿を探した。

「近藤」
「わ」

 きょろきょろと顔を動かしていると、後ろから声を掛けられた。俺は振り向いて、手を上げる。

「よう、さっきぶり」
「ん」
「…こいつがさっき言ってたやつ?」

 ハジメの少しだけ警戒心を含んだ声。山本はちらりとハジメを見た。そのままじっとハジメを見つめ続け、ハジメが困惑したように俺の服を引っ張った。

「な、なー。なんかすげえ見られてる感じする」

 ――そういえば、山本はハジメの姿が見えることを言っていなかった。今更だが言おうと口を開いた時。

「ふーん、こいつがハジメね」
「っえ!」

 ハジメが大きな目を更に大きくした。俺と山本を交互に見て、困惑している。

「…えーと、ハジメ、お前の姿、こいつにも見えてるから」
「ええ!? まじで!?」
「まじで」
「かずひろだけじゃなかったのか!」
「うん、そうみたいだな」

 へええと驚いているハジメに苦笑し、俺たちは空いている席に座った。今はもう講義が始まっている時間だから、人は少ない。

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