28

「はあ……」

 家を飛び出したのはいいけど、行く宛がない。俺は山本に相談してみようかと、大学へ向かって歩く。まだ大学にいるはずだ。一応連絡を入れておこうと思い、スマホを取り出す。

『今からそっち行くからまだ大学に残ってて』

 スマホを仕舞うと俺は、溜息を吐いて空を見上げた。……ハジメの兄貴って、どんなやつなんだろう。ハジメが怖がっていたから、本当に怖そうだけど。そいつの目を盗んで来たんだろうか? それなら、また連れて行かれるんじゃ、と少し不安になる。帰っていなかったらどうしよう――。

「かずひろ」
「……っ!」

 びくりと体が跳ねる。振り向くと、ハジメが立っていた。

「久しぶりに会えたのに置いてくなんてひどくねー?」
「つ、ついてくんなって言ったのに」

 ハジメの口に視線がいく。先程のあれを思い出して顔が熱くなった。はたから見たら一人で赤くなってる変なやつだ。

「ちょっとくらいいーじゃん。な?」
「……ま、いいけど」

 ごにょごにょと答える。ハジメから逃げてきたのに、お前がいたら何のために家を飛び出したのか。……でも、山本に連絡してしまったから、とりあえず大学へ行くか。

[ prev / next ]



[back]