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『あんたに幼馴染? 急に電話してきて一体何なの』
「いや、いなかったっけ? ほら、すげぇ元気な女」
『あー、さやかちゃんだったかしら?』
「さやか、」
『…そう、確か山本さやかちゃん。七年前――…』

 姉に電話して訊いてみると、案の定知っていた。しかし。
 七年前、アンタの目の前で車に轢かれて亡くなった子でしょう? その姉の言葉に息を呑む。亡くなった? そんな馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 

『気の毒よね、まだ若かったのに飲酒運転で』

 それ以上聞きたくなくて強制的に電話を切った。
 俺は息を乱しながら声を荒げる。

「鷹野、鷹野! どこだよ、どこにいるんだよ!?」

 「いるんだろ」弱々しく呟いても当たり前だが返ってくる言葉はなかった。静寂だけが部屋を支配する。
 『ぼくは嘘を吐かないよ』

「お前はやっぱり嘘吐きだよ、鷹野」

 涙がどうしようもなく流れて、俺は静かに目を閉じた。
















「この前さ、鷹野って奴のこと訊いてきただろ?」
「…あぁ」
「担任に訊いてみたらさ、目を見開いてどうしてその名前を知ってる、って凄い剣幕で言われたんだけど」
「担任?」
「岡田だよ」

 岡田――温和な性格をしている数学教師だ。年はまだ若く、二十代後半くらいだ。その先生が凄い剣幕でどうしてその名前を知ってるのかと訊くいうことは。――岡田は知ってるんだ、鷹野を。
 俺はぶわりと鳥肌が立つのを感じて走り出す。後ろから声が聞こえたが、そんなのを気にしている隙などなかった。早く、早く訊かなければ。

「うわっ!?」
「っ、!」

 どん、と誰かにぶつかって尻餅をつく。

「す、すいません」
「こっちも不注意だったよ。ごめんね、大丈夫かい?」
「はい」

 手を差し出されたが俺はそれをとらずに立ち上がり、尻に付いた埃を払う。初めて顔を上げれば、ぶつかったそれは岡田だった。

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