13

「ただいま」
「かずひろ! おかえりー!」

 ドアを開けた瞬間飛んできたそれにぐえ、と蛙が潰れたような声が出て、背中が玄関のドアに当たる。

「おい、危ない……っていうかこういうことするなって」

 理沙とか母さんに見られたらやばいんだって。じろりと睨みつけると、ハジメはにいっと笑う。

「大丈夫だって、一人は二階にいて、もう一人はテレビに集中してるし!」
「……ああそう」

 そういう問題じゃあないんだけど。まあいいや。一応確認したってことで、今回は許しておこう……。って、なんかどんどんハジメに甘くなっていってる気がする。

「とりあえず離れて」
「かずひろもうどこにも行かねえ?」
「行かない」

 ぱっと輝く顔。俺は苦笑した。…甘くなっていくのは、こいつがこんな感じだからだ。直っていうか、周りに全然いないタイプだから、甘やかしてしまう。…弟みたいな感じというか。犬というか。
 ハジメは俺の体から離れると、大きな目でじっと俺を見つめる。ふ、とハジメの姿が誰かとダブって見えて、俺は目を瞬く。……コンタクトがずれた? いやそんなわけない。今、誰かと…。そうだ、夢の中で。

「かずひろ?」

 俺ははっと我に返る。ハジメは俺の顔を覗き込んで、首を傾げた。もう誰かとダブって見えることはない。

「……いや、なんでもない」

 俺はハジメから目を逸らして、首を振った。

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