12

 夢を思い出そうとしてみるが、靄がかかったみたいにもう思い出せない。俺は諦めて、千草が食べているパンを見つけてそれを買った。――ハジメは帰っただろうな。俺は不自然にならない程度に周囲を観察する。……よし、いないようだ。俺はほっとして千草の隣に戻った。ていうか、このパン小さいわりに高い。もっと良く考えて買えば良かった。
 まあ買ってしまったものは仕方ない。俺はパンを開け、パンをかじる。とろりとしたクリームが口の中に広がって、笑みが零れた。

「旨い」

 呟けば、隣からそうだろ、とドヤ顔で返ってきた。お前が作ったんじゃないのにその顔やめろ。

「……あ」
「ん?」
「いや、もう一個買って帰ろうかなって」
「まじ? そんなに気に入った?」
「うーん、というか、妹がこういうの好きそうだから」
「へえ、買ってあげんだ」

 「近藤くんやさしー」ニヤニヤとする千草を無視して、残りのパンを食べていく。悪い理沙。お前の分じゃなくて――ハジメの分だ。あいつ、結局昨日は甘いもの食ってなかったし、買っていってやろう。要らなかったら要らなかったで俺が食べるか理沙にやればいいし。
 うん、そうしよう。高いけど、あいつならこの値段に見合った反応を返してくれるだろう。俺はちょっと楽しみになって、パンを急いで食べ終わると立ち上がった。

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