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「千草、悪いけど先行っててくれないか。すぐ行くから」
「? いいけど…じゃあ、売店寄ってくわ」
「ああ」

 千草が不思議そうな顔をしながら去っていく。俺は周囲にもう人がいないのを確認してぎろりとハジメを睨んだ。丸い目が爛々と輝いている。

「何で来たんだ。っていうか何でここが」

 小声で話しかける。ハジメは先ほどまで千草が座っていた俺の隣にすとんと座った。

「だってかずひろのこともっと知りたいし。気配辿ってきたんだよ」
「気配を辿って…」

 そうか。最初俺の家に来たのも、気配を辿ってきたのか。…つまり、俺がどこに行こうとハジメには分かるってことか。最悪だ。

「とりあえず、俺に話しかけるのはやめてくれ。俺以外に誰も見えてないんだから」
「さっきのやつ、誰?」

 おい、話を聞け。咎めようかと思ったが、ハジメの顔を見て留まる。ハジメの顔は、何を考えているのか良く分からないものだった。

「……さっきの奴って、千草のことか」
「ちぐさっていうの、あいつ」

 ふうん、とハジメは呟いた。ずっとはしゃいでいたのに、何か千草に気に入らないところでもあったんだろうか。顔が暗い。

「千草がどうした?」
「……かずひろっておれ以外に友達いたのか…」
「は?」

 目が点になる。何? 友達がいたのかって? なんて失礼な奴だ。しかもそんなしみじみと。

「お、お前だって…俺以外にいるだろ? 友達」
「そりゃいるよ」
「だよな? だから俺にいるのも別におかしなことじゃないだろ」
「そうだよなあ…かずひろっていい奴だし」

 ……ハジメの言葉って裏がないから、そうやって褒められると照れる。

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