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 振り払おうにも、力が強い。俺は初めてこういった存在に恐怖を抱いた。思わず振り返った俺と奴の目がバチッと合う。

「やっぱし見えてんじゃん」

 俺の強張った顔を見て、ニヤリと口が弧を描いた。――火事場の馬鹿力みたいなものか、それともただ単に奴が油断したのか俺は力いっぱい腕を振り払うと、今まで振り払えなかったのが嘘のようにするりと拘束が外れた。俺はその一瞬の隙を逃さず、全速力で家に帰った。周りの目なんて気にしていられない。
 家に帰りつく。玄関の鍵をかけて、ドアに背を預けた。ばくばくと心臓が煩く鳴っている。周りを確認して見るが、奴の姿はない。一応幽霊が入ってこないように塩を置いてはいるが、あいつに効くか分からないから少し心配だ。……まあ、でも助かったようだ。

「お兄ちゃんお帰り。どうしたの、そんな汗だくで」

 リビングから顔を出した妹の理沙が不思議そうに俺を見る。俺は息を吐いて、なんでもないと首を振った。















「逃げるなんてひどくね?」

 二階にある自室へ入った瞬間目に入った奴の姿と耳に入った声に心臓が止まるかと思った。本当に恐怖を感じた時人は声が出なくなるというが、あれは本当だったらしい。奴はベッドに胡坐をかいて、俺を見ていた。

「な、なななな…」

 なんで俺の部屋に!?
 
「おっ喋った」
「……どうして、俺の家が…」
「どうしてってお前のあと追いかけたからここに入ってったから」

 それが何? という感じで首を傾げられ、顔が引き攣る。途中で確かめればよかった。まさか追いかけられてるなんて――そんなにこいつがしつこいなんて思っていなかった。

「ま、座れよ」

 まるで部屋の主のように、俺を促す。俺は覚悟を決めて、その場に座った。

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