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「なんか…ほんとに仲いいんだなあ」
「そう、なのか?」
「うん、お前気に入られてるぞ」
「…そ、か」

 俺はなんだか照れくさくなった。そして、以前会長に抱き締められたのを思い出し、更に顔が熱くなる。

「……照れすぎだろ」

 高橋が真顔で突っ込んできた。







 高橋の用意も終わり、並んで寮の中を歩く。食堂が見えてきたところで、そういえば高橋はあの眼鏡の先輩のことを知っているのだろうかとふと思った。

「なあ、生徒会にさ、眼鏡の人っている?」
「眼鏡? 俺あんま知らないけど、眼鏡の人とかいなかった気がする」
「ふーん、そうか」

 高橋もそういうのに興味ないんだった。訊く人を間違えたな、完全に。まあいいや。会長に会った時に思い出したら訊こう。

「腹減ったなあ」
「何食べる?」
「まず食堂になにがあるか分からん」
「俺のおすすめは激辛カレーだな」
「お前俺が辛いの嫌いなの知ってんだ――っと、すみませ…」

 食堂から出てきた人と肩がぶつかり、すぐに謝って顔を上げる。俺と、ぶつかった人はぴしりと固まった。
 会長だ! 会長はハッと我に返ると、ちらりと俺の隣に視線を向けた。そして睨むように目を細める。会ったばかりの会長も、こんな顔で俺を見ていた気がする。というか会長って食堂行くんだ。
 ――ってやばい。高橋は知っているとはいえ、こんなところで長居はできない。

「高橋、行くぞ」
「お、おお」

 蛇に睨まれた蛙のように動かなかった高橋が、引き攣った顔で俺を見て頷く。俺は頭を下げると、食堂に入った。

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