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side:秀史

「何笑ってるんだ?」

 あいつの姿を見つけて手を振ると、振り返してきた。それに思わず笑みを浮かべると隣にいる浅見が怪訝そうな顔をした。

「別に。なんでもねえよ」
「なんでもないという顔ではなかったが……まあいい、それで明日のことだが」
「ああ」

 風紀委員長である浅見が手帳を開き、眼鏡を指で押し上げる。俺はその隙に再びあいつの方に視線を向ける。机を挟んで向かい合ってるやつと顔を近づけて何やら話している。その瞬間胸にもやもやとしたものが広がった。

「おい、山渕?」
「あ?」
「何故いきなり不機嫌になっている…。俺の話を聞いていたか?」
「……聞いてねえ」

 お前な、と浅見が呆れたように呟く。そして俺がさきほど見ていたあいつの方を見て、目を細める。

「なるほどな」
「なるほどなって何だよ」
「最近機嫌が良い理由が分かったんですっきりした」

 ……小田原の存在に気付きやがったか。生暖かい視線を向けてくる浅見を睨み付ける。

「お前にしては珍しい相手だが、まあいいんじゃないか」
「…うるせえよ」

 俺は舌打ちして、小田原に送るためスマホを取り出した。
 

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