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「あの…永良、サンキュ。お前、いい奴だよな」
「あー…ま、下心があるからな」
「は? ごめん、何だって?」

 ぼそりと何かを呟いた永良に首を傾げるが、意味有りげに笑うと、なんでもないと言って黙ってしまった。
 それにしても、クラスの皆が俺の様子に気づいてくれたってのが本当だったら凄く嬉しい。現金っていうか、都合がいいと思うけど、クラスの皆とちゃんとした友達になれたらって思った。

「…つーか、お前、体調悪くてここに来たんだろ? 横になれよ」
「いや…俺はもういいよ」

 っていうかここのベッド永良が使ってるし。寝るんだとしたら他のベッドを使わせてもらう。

「横になれよ」
「…は、はい…」

 俺は顔を引き攣らせて頷いた。笑顔なのがまた恐ろしい…。そろそろと永良の邪魔にならないように寝転がると、ほんのりと暖かかった。永良の付けていると思われる柑橘類の香水が心地よかった。それと同時に何故か心臓がばくばくと動き始めて、慌てる。人の使ってたベッドの匂いで興奮するとか変態じゃねーか…!
 永良にバレないように顔をベッドに押し付けていると、ぼふんと衝撃が伝わった。そろりと見てみれば至近距離に永良の顔。いつも目を細めて睨んでいるけど、やっぱり綺麗な顔立ちをしている――。
 !?

「な、永良!?」
「ん?」

 ん? じゃないよ! 何で一緒に寝てんの!? そして何故こっちに手を伸ばしてんの!?
 永良の手はそのまま俺の背中に回り、ぎゅっと引き寄せられた。俺の体はガチガチに固まって、それが伝わったらしい永良の顔に笑みが浮かぶ。恥ずかしくて死にそうだ。

「おら、寝とけ」
「う、わ。ちょっと」

 髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜられ、目を瞑る。最初は力が強かったけど、だんだん手つきが優しくなってきている。
 ――永良は、優しいやつだな。
 改めてそう感じ、俺は押し寄せてくる睡魔を受け入れた。












「ん……」

 体が動かない。ぼんやりする目を何度か瞬かせる。はっきりしてきた景色で一番最初に映ったのは誰かの胸元。……胸元!?
 俺は永良に抱きしめられていた。しかも動けないほどしっかりと。……俺は抱き枕かよ。

「なが――」

 ら、と続けようとした所で保健室のドアが勢いよく開いた。その音にびくりと体が震える。誰だろう、と思って真っ青になる。こんなところ見られたら――!
 あわあわと慌てていると、足音が大きくなってきている。……こっちに向かってるようだ。やばい!

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