4

「おい、落ち着いたか?」
「……あ、あぁ…」
「じゃあ顔上げろよ」
「いや、それはちょっと…」

 は、恥ずかしい…。
 俺は羞恥にぷるぷると震えた。あれから子供のようにわんわん泣いて、気がついたら永良に抱きついて、しかも俺の涙やら鼻水やらで滅茶苦茶服を濡らしてしまった。こんなの俺のキャラじゃない。というか、永良の前だとイマイチ調子が狂うっていうかさ…。俺がこんな状態だからってこともあるんだろうけど。前まではちゃんと話すことが出来たはずなのに…いつからだろう。……明が来てから、だろうか。

「いい加減にしろよ、結城」
「え…うわっ!?」

 ガッと頭を大きな手で掴まれ、勢い良く顔を上に向けられる。その際首から嫌な音が聞こえた。しかも痛い。
 ……っていうか、顔見られた。
 永良はぽかんとすると、生暖かい目で俺を見た。かああっと顔に熱が集まり、俺は両手で顔を隠す。

「隠すなよ」
「う、うるさい。っていうか、明に関わるなって、何でなんだ」

 永良が黙る。保健室は静寂に包まれ、俺はいたたまれなくなって手を外して少し俯いた。言いたくないのだろうか。でも、俺は知りたい。永良だって、最初は明に好意を向けていたはずなんだ。なのに、今はそれが感じられない。何の理由があってそうなったんだろう。
 永良が小さく溜息を吐く。

「……あいつのさ、誰でも受け入れるところ、すげえなって思った。俺はこんなんだけど、一番の友達になってやるって言われて嬉しかった。言われたことなかったからな、そんなこと」
「な…お、俺は言ったよ」
「お前のは…なんつーの。上辺だけなのが丸分かりっつーか、一匹狼の不良に声を掛ける自分に酔ってるように見えたからな」

 図星を差され、俺は黙る。永良は苦笑すると、ガシガシと髪を掻き混ぜた。

「明を見てたら自然と分かった。あいつも自分に酔ってるだけってな」
「あ、明が…?」
「気づくのに時間がかかったのは、その雰囲気とかオーラみたいなもんが巧妙に隠されたからだ。で、俺個人に興味があるんじゃねえんだなって思ったら冷めた」
「そんな…。でも、何でそれを俺に…」

 明がそんなことするはずないって思いながら、どこか納得する部分があった。俺という人間じゃなくて、親友という言葉に価値があっただけなのかもしれない。
 
「お前いつまで経っても気づかなさそうだし、何より見てられなかったからな。クラスの連中、お前が元気ないって騒いでたぞ」
「え…」
「お前もさ、明だけを見るんじゃなくて、周りにも目を向けてみろよ」

 永良の言葉に目を丸くする。俺の様子に皆は気づいていた……?

[ prev / next ]



[back]