恋の花

俺様会長×平凡







 よく漫画とか、そういうもので不良が犬を拾って悪いイメージから良いイメージに変わることってあるけど。――これはそういった類のものだろうか。

「何見てんだよブサイク」

 我が財前高等学校の生徒会長でありどこかの不良グループの頭でもある山渕秀史先輩が、花に水を遣りながら引き攣った俺の顔を睨んだ。









 事の発端は、俺が遅刻をしてしまったことだ。俺は遅刻の常習犯というほどでもないけど、まあ寝坊で良く遅刻をする。流石に遅刻しすぎたせいか、温厚な担任もついに堪忍袋の緒が切れ、今日一日俺は雑用係になってしまった。授業で使う資料を取りに行かされたり、黒板を消したり、プリントを集めたり、まあそんなところだ。そして放課後に雑用の一つ――ゴミ捨てを任された俺は、ダラダラとゴミ捨て場に向かっていた。というか黒板消しはともかく、ゴミ捨ては清掃の人の仕事だからこれくらい許してくれてもいいじゃないか。――じゃなければ、こんなことも起こらなかったのに。
 ゴミ捨ては清掃の人の仕事だから、ゴミ捨て場には生徒は寄り付かない。この学校の奴らはお坊ちゃんばかりで、そんな汚いところ近寄らないからな。そんなゴミ捨て場への道に、花壇がある。――なんてこと、俺は今日初めて知ったんだけど。恐らく、知っている人はそこまでいないんじゃないかっていう場所に。生徒会長が。象の形をした可愛らしい如雨露を持って。ヤンキー座りをしている。

「おい」

 喋らない俺に痺れを切らしたのか、会長が苛立った声で話しかけてくる。俺ははっと回想から現実に戻ってきた。というかこの人さっき、さらっと俺の事ブサイクって言わなかったか。確かに会長は俺が生きてきた中でトップを争うくらいのイケメンだけど、なんて失礼な人なんだ。
 いや、というか。――会長は、近づく人がいれば制裁を食らうほど人気者で、本人も不良の頭で。俺の顔からさあっと血の気が引いていく。

「な、何も見てません」
「今がっつり目合ってるけどな」

 会長の目が細くなる。ゴミ袋を持つ手が震えた。

「おおお、俺は、ただゴミを捨てたくて」
「あ? ――なんだそれゴミか。汚ねえな、近づくなよ俺に」

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